ピアノ独奏曲(鍵盤楽器)で最高傑作をひとつ挙げるなら、私は迷わずショパンの“幻想ポロネーズ”です。バッハ、ハイドン、ベートーヴェン、モーツァルト、メンデルスゾーン、シューマン、シューベルト、リスト、ラフマニノフ、スクリャービン、ドビュッシー、ラヴェル、サティ…数多くの作曲家の名曲を聴きましたが、鍵盤で奏でることができる究極の音楽、まるでピアノで詩の調べを表現しているような叙情性は、この曲以外には見当たりません。
ポロネーズ第7番 変イ長調 作品61、1845~1846年にかけて作曲されたショパン最後の大曲です。肺病を患う苦痛と恋人ジョルジュ・サンドとの別れの悲哀の中、作曲されたと言われています。
ポロネーズは、マズルカと並んでポーランドの代表的な舞曲ですが、彼の晩年に向かう過程とともにポロネーズはその形式が曲から薄らいでいく傾向にあり、この幻想ポロネーズに至ってはポロネーズ舞曲の形式は所々にリズムとして現れているのみで、ショパン独特の夢幻的な音楽の世界が形成されています。
私がピアノを弾く事に夢中だった中・高校生の頃にこの曲を初めて聴いたのですが、いまほどの感動はありませんでした。古典的形式に基づいた代表的なピアノ曲を中心に練習していたこともあるのでしょう。形式の無いこの曲に戸惑いを感じていたのかもしれません。幻想ポロネーズは技能的に難曲の類には入りませんが、情緒豊かに弾きこなすのは相当な技量と感性が必要な曲だと思います。
リストが語っています。「この曲の中に大胆で華麗な描写を探し求めても無駄である。もはやこの世には勝利を誇る騎士の高らかな足音は聞かれない。これらの調べに代わって、この曲はいたるところ突然の変動に傷つけられた深い憂愁や、急な驚きに乱された平安や、忍びやかな嘆きで彩られている・・・」。賞賛ともとれますし、感傷的な不評ともとれます。それだけ、ショパンでしか到達できなかった至高のピアノ音楽であると私は解釈しています。
曲の序奏は、アルペジオ風のゆっくりと上昇するなんともため息がでるほど美しい調べで始まります。いきなり転調するところも見事です。Poco più Lentoの第4主題はコラール風に哀愁がただよい、そのあとの半音階的なもの悲しい旋律に続きます。この部分にショパン以外に描き得ないピアノの超絶的な美しさを感じます。そしてフィナーレとも言うべき壮大な展開を魅せるのが冒頭写真に示す譜面の部分で、この前の頁で第1主題の回帰がすさまじい和音とともに進行し、そして譜面の第4主題に回帰します。右手の三連譜和音と左手の上下するオクターブ和音が高潮し、左手のオクターブ和音が第4主題を奏でながらやがて右手の和音とともにクライマックスに達します。ピアノという単一楽器でここまで表現できるのです。空前絶後というと言い過ぎかもしれませんが、それほど感銘を受けたフィナーレでした。静かなトリルで迎える終焉部は、美しい鐘の一音で幕を下ろします。
幻想ポロネーズは一度聴いただけではなかなか音楽的に解釈できないかもしれまんせが、何度も咀嚼して味わっていただきたいと思います。YouTubeにアップされていたルービンシュタインをリンクしました。そのほかにも、より詩的に演奏するサンソン・フランソワ、情熱に満ち溢れるラファウ・ブレハッチもお薦めです。
当ブログの“幻想ポロネーズ…Pollini”もよろしければご覧ください!
幻想ポロネーズ_アルトゥール・ルービンシュタイン(Arthur Rubinstein)
幻想ポロネーズ_サンソン・フランソワ(Samson François)
幻想ポロネーズ_ラファウ・ブレハッチ(Rafał Blechacz)
(追伸:2,012.7.13)
エフゲニー・キーシンの弾く幻想ポロネーズを見つけました!
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