ピアノソナタロ短調(フランツ・リスト Franz Liszt)…
最近になって悩殺されたピアノ独奏曲です。
41~42歳のときに作曲されたリスト唯一のピアノソナタですが、ハンス・フォン・ビューローによる1,857年の初演の際には、賛否両論の大論争を巻き起こした大曲です。
確かにソナタらしからぬ独創的な曲風で、初めて聴いたときには「リストはこんな曲も作ったんだ」と僕自身は感嘆しました。
ソナタ形式に準じながらも、休止・切れ目の無い単一楽章の曲なので違和感があったのかもしれませんが、リストの力強さ、重々しさ、そして何とも言えない特有の優しさ、愛らしさが、すべて描かれている一大傑作だと思います。
ショパンの幻想ポロネーズで受けた印象と非常に似通っているのですが、僕はこの曲にピアノ音楽としての崇高的な美しさを感じました。
主題変容の技法が用いられているそうですが、とても多彩な曲想で構成されていて、あたかもバラード(器楽曲としてのバラード)ではと錯覚するほど、曲全体から叙情的な雰囲気が醸し出されています。
この名曲、実に多くの著名なピアニストが自らのディスコグラフィとして記録を残しています。
そのなかでも…
マウリツィオ・ポリーニ(Maurizio Pollini 1942年~)
クリスティアン・ツィマーマン(Krystian Zimerman、1956年~ )
この二人のヴィルトゥオーソ(virtuoso)…
ともにショパン国際ピアノ・コンクール歴代優勝者ですが、甲乙付けがたい名演奏です。
両者とも強靭なテクニックの持ち主であることは周知ですが、Prestoの部分はともに一つひとつの音が濁ることなく明確に打鍵され、曖昧さがない分、硬質的な響きを感じます。
そしてespress(espressivo エスプレッシーヴォ)はともに見事に謳いあげ、その優しい表現に酔いしれることができます。
ただ、ポリーニの方はテンポの変化を最小限に抑えていて、なおかつPrestoは敢えてアップテンポではなく実にしっかりとしたリズムを保ち、硬質的ながらも音に深みを感じるような演奏です。
一方、ツィマーマンは驚異的な切れ味のテクニックを披露するがごとく、Prestoをよりスピーディに仕上げていますので、流れるような爽快感があります。
奏者に対する嗜好は、人それぞれのセンスに委ねられることを前々から述べているところですが、この曲については僕自身、ポリーニの演奏に、より豊かな音楽性を感じました。
もし興味がありましたら、次のポリーニとツィマーマンの演奏を楽しんでみてください。
僕もYouTubeでしばらく聴いていましたが、音の質感に満足できずCDを購入しました。
マウリツィオ・ポリーニ
リスト・ピアノソナタロ短調(1,989年録音/47歳のとき)
クリスティアン・ツィマーマン
リスト・ピアノソナタロ短調(1,990年録音/34歳のとき)
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