「リヒテル(スヴャトスラフ・リヒテル, 1,915~1,997)と私が四手でかかってもベルマンにはかなわない」とエミール・ギレリス(Emil Gilels, 1,916~1,985)が称賛したラザール・ベルマン(Lazar’ Berman, 1,930~2,005)…
ベルマンの弾く“リスト/超絶技巧練習曲(全曲盤)”に対する、同郷ロシア(旧ソビエト連邦)の世界的ピアニスト ギレリスのパブリシティですが、当時はかなりセンセーショナルな見出しでした。
それは、“超絶技巧練習曲第4曲マゼッパ(Mazeppa)”を聴いたときに確信しました。雷鳴がとどろくがごとくの演奏に身震いし、畏敬の念を抱くほど感動した覚えがあります。とても人間業とは思えず衝撃的でした。
琴線に触れる演奏家(演奏曲)というのは誰しも存在するのではないかと思いますが、10代後半に初めて知ったラザール・ベルマンは私にとってその一人でした。
“チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)/1,975年11月録音)”と、“ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30(ロンドン交響楽団/クラウディオ・アバド(指揮)/1,976年11~12月録音)”は、ともにベルマンの演奏で初めて鑑賞した経緯もあって、いまでもずっと私のBM(ベンチマーク)になっています。
ベルマンはテンポ・ルバートを多用する演奏家ではなく、イン・テンポで表現するピアニストだと思います。ここでいうインテンポは、メトロノームでリズムを刻むような物理的にテンポが一定であることではありません。自然な流れで曲の抒情感を表現し、レガート奏法によって創り出されるピアニシモの響きには荘厳さが漂います。
ベルマンの超人的技巧を駆使した演奏は、まさに剛の鍵(拳)のごとくです。
大きな大きな手で奏でられる音は一つひとつの鍵が明確で、重くズッシリとしたフォルティシモの打鍵はPresto(プレスト)の局面においても揺らぐことはありません。
凄まじさ、力強さ、荘厳さ、そして時折儚(はかな)さを感じる、そんなベルマンならではの音楽世界に感銘を受けた方も多いのではないでしょうか。。。
リストの曲のなかでもスペイン狂詩曲は大のお気に入りです。三拍子の舞曲で、前半はゆったりと、後半は極めて速いテンポで頂上まで駆け上がりフィナーレを迎えるとても華やかな曲です。
モノラルカセットレコーダーでエアチェックしたのが最初で、疾風怒濤の演奏に圧倒された記憶が今でも鮮明に蘇ってきます。惜しむらくは誰の演奏なのかがこれまでずっとわからずじまいでした。
でも、とうとう見つけました。そう、やっぱりラザール・ベルマンだったのです。
当時の記憶に残っているスペイン狂詩曲はどうやら1,953年録音版(?)のようです。写真のCDに収録されているものは1,979年のカーネギー・ホール ライブ録音ですが、迫力という観点では前者が勝ります。年齢でみれば23歳と49歳ですから異なってしかりですね。前人未踏のスケールで弾きこなす難曲の数々にミスタッチもありますが それを補って余りある入魂の演奏です。
前述の“リスト/超絶技巧練習曲(全曲盤)”も1,963年、ベルマン33歳のときの録音ですから、若かりしときのパワーは強烈の一言に尽きます。
それではベルマンの名演奏をYouTubeから。。。
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