フランツ・リスト(1811-1886)の生誕200年に当たる2011年に録音された「LISZT MY PIANO HERO(リスト マイ ピアノ ヒーロー)」。
ピアノ奏法に革命を起こしたリストの作品から、“彼の最高で最も知られている曲”を選んだというラン・ラン( LANG LANG )のアルバムです(録音当時29歳)。
繊細とダイナミズム。
対極にある二つの感性を併せ持つラン・ランの演奏は、詩情的で、そして躍動的で、視覚に例えればあたかも色彩に富んだ映像美を眺めているようです。
収録されている『ハンガリー狂詩曲第15番イ短調S.244-15 ラコッツィ・マーチ』は、ヴァイマル時代(40歳前後)に完成した譜面がリストのオリジナルですが、ラン・ランが弾くのは“ウラディミール・ホロヴィッツによる編曲版”です。
オリジナルに対して大胆に手が加えられ、重厚な曲に仕上がっています。
10代の頃のラン・ランは、このホロヴィッツの編曲にかなりインスパイヤされたそうです。
ラン・ランが弾くラコッツィ・マーチは、超絶的なテクニックを駆使して怒涛のごとく弾きこなすホロヴィッツやヴォロドスとは一線を画し、曲の音楽性を彼の感性で解釈した詩情美が演奏に現れているような気がします。
『アヴェ・マリア(シューベルト)S.558 リスト編曲』は、ラン・ランの演じるアゴーギクとディナーミクの効能で、まるで人が歌っているかのような甘美な旋律に魅了されます。
『ピアノ協奏曲第1番 S.124』は、これもヴァイマル時代に完成し、41歳の時に自らの演奏で初めて聴衆に披露された曲です。
リストがピアニスト時代に培った力強さ、重々しさ、優しさ、そして美しさが融合した、ピアノ協奏曲の傑作だと思います。
特に第2楽章の曲調は素晴らしく、ラン・ランの奏でるピアノの音色が格別です。
第3楽章のフィナーレは、歓喜の渦に包まれて終幕する歌劇のように華やかで感動的です。
プロモーションMV【Lang Lang – Lang Lang / Liszt – My Piano Hero EPK】
ラン・ランは語っています。
「(リスト)はその音楽にオーケストラ的な側面を加えたかったんだ。そう、時おり(リスト)の作品は、まるで小さなオペラか交響曲のように聴こえるんだ」※
このアルバムには、そんな彼の豊かな感受性が結実しています。
※CD付録の解説書より引用
歳を重ねるにつれ、演奏スタイルに重みが加わっていると感じるラン・ラン。
youtubeには、リスト作品のライブ映像がありますが、スタジオ録音の本アルバムは、安定した奏法で制御を効かせていて曲に深みが加わっています。
34歳の現在、そしてこれからの円熟期のレコーディングが一層待ち遠しくなりました。
最後に、三者三様のラコッツィ・マーチ(ホロヴィッツ編曲版)をどうぞ。
観客が撮影したビデオで音質はよくないですが、迫力満点のラン・ランの演奏です。(途中で拍手が起きるのはいただけないですが)
本家ホロヴィッツの演奏は凄まじいですね。
ラストは圧巻です。
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